その4
がやがやと騒がしく、タバコの煙りが隠った部屋にまたもや電話の音が響き渡る
。たまたま一番近くに居合わせた中年の男は苦虫を噛み潰した様な顔つきで、手
垢で汚れた受話器を取る。
「はい県警本部、緊急対策室… なんだって? またか? それで、今度はどこ
で? △◇病院? そこでは幾つ? 6体だな、わかった。引き続き周辺の捜
索に入れ… 応援だって? だめだ、どこも手一杯で、とても応援なんか出せ
ないぞ。現有戦力で迅速な発見に努めるんだ。わかったな! それじゃ、切る
ぞ! 」
ガチャン…
まるで投げ出す様な勢いで受話器を戻した片桐警部補は、かかる緊急事態に対応
する為に立ち上げられたばかりの対策本部に配属された8人の部下の方を睨み付
ける。すると、上司の癇癪を恐れながらも、一人の若い刑事が問いかけて来た。
「また… ですか? 」
「ああ、また死体が消えた!」
叩き上げのベテラン警部補は、まるで問いかけて来た若い刑事が、この騒動の張
本人であるかの様に厳しい顔付きを見せたままで唸るように答える。
「今度は三崎町の△◇病院だ! 無くなった死体は6体。目撃者の話では、全員
が歩いて病院から逃げ出したそうだ」
「あるいていたなら死人じゃ無いでしょう? 」
別の中年の刑事が首を捻りながら問い質すと、片桐警部補は今度はその部下を睨
む。
「ああ… すたこらと歩いて逃げたそうだ。でも、そいつらは全員が死亡してい
たのは明白だ。昨日三崎町で起きた玉突き衝突事故の犠牲者だからな。あそこ
には、大勢の警官も詰め掛けて、6人の死亡は確認されていた」
「でも… 歩いて出たなら、それに目撃者がいたなら、どこに行ったかくらいは
、分かるんじゃありませんか? 」
片桐警部補は、部屋の隅で様子を窺っていた若い刑事の問いかけに頷く。
「そりゃ、そうだが… 深夜の病院で死体が歩いていたものだから、警備係は腰
を抜かして、ゾロゾロと目の前を死体が通り過ぎるのを見送っちまったのさ。
まあ、誰だって、死体の行進に付いて行きたいとは思わないだろうよ」
ベテランの警部補が立ち上がり、これまでの奇怪な状況を記したホワイトボード
を平手で叩く。
「いいか、これで昨日の夜から今日の早朝にかけて、市内、並びに近在の12の
病院と3つの斎場から、合計で、えっと… 」
警部補は、ホワイトボードの記入された行方不明死体の数を足し算する。
「う〜ん、35の死体が消えた事に成るんだよ。今の電話の情報によれば、死体
は自分で歩いて出て行ったそうだ。俺達の仕事は、逃げ出した死体をふん捕ま
えて、元の安置所なり棺桶なりに火急かつ速やかに戻すことにある。わかった
ら、こんな所で油を売っていないで、とっととケツを上げろ! 」
強面の警部補の命令だが、各部門から急遽掻き集められた刑事達は途方に暮れて
お互いに顔を見合わせてしまう。そんな中で、若手の一人が手を上げて質問する。
「あの、捕まえるって… その、死体をですよねぇ… どうやって? 」
「知るか! 現場で臨機応変に対応しやがれ! 説得するなり、ワッパをはめる
なり、お経を唱えるなり、好きなようにすりゃ良いだろう! 」
警部補のやけっぱちな怒鳴り声と被る様に、再び電話のベルがけたたましく鳴り
響く。これ以上片桐が激高するのを恐れた若い刑事が、ひったくる様に電話に出
た。
「えっ… はい… はい。うわぁ、またですか? はい、それで… はい… は
い… はぁぁ… 分かりました」
会話を終えて受話器を置いた刑事に、他の者の視線が集まる。
「あの… 西山岡派出所からで、市立病院から、死体が消えたそうです。その…
30体ほど… 」
貧乏くじを引かされたと思いながら、若い刑事は片桐に報告する。
「それで、目撃者はいないのか?」
「それが… 看護婦さんが数人目撃したらしいのですが、皆さん、その、錯乱な
さっているらしくて… 」
申し訳無さそうに若い刑事が、この場の指揮官である片桐に語る。案の定、強面
の警部補は机を拳で殴りつけた後に大声を上げた。
「なんだって、いきなり死人が皆で揃って家出しなきゃ成らないんだ? しかも
夜の夜中に? どこに行くんだよ? 消費税値上げの反対デモに参加するつも
りなのか? いいかげんにしやがれ! 」
警部補の憤りに誰も適確な答えは持っていない。集まった刑事一同は揃って不気
味な事件に当惑している。鬼瓦の異名を持つ片桐は、最後に電話を取った若者に
目を付ける。
「よし、わかった。お前、とりあえず市立病院に行って、目撃者の看護婦に事情
を聞いてこい。他の者は機捜のPCに便乗して市内を捜索しろ。わかったら、
ぼやぼやしていないで、散りやがれ! この怠け者供!! 」
指揮官の剣幕に押されて、刑事達はあわてて夜の街に飛び出して行った。
白い柔肌を隠す赤い肌襦袢は、まるで男を誘い猛らせる小道具の様に思える。惨
鬼は本家奥の院の一室で、地酒を満たした御猪口を片手に胡座をかいていた。そ
の股間には里で虹の方と尊ばれる女性が顔を埋め、むき出しに成った男根に唇を
押し当てている。
虹の方には別に夫があり、惨鬼にも妻も朧丸と言う子供も居るから、この状況は
いわゆるダブル不倫である。虹の方の夫はこの地の重鎮の一人として、新規条約
の締結の為に里を訪れている政府高官との連絡役として多忙を極めており、この
夜も館には居なかった。
なにもこんな時にとも思われる密やかな情事ではあるが、日頃は大姫を補佐する
役を務める虹の方はそれなりに忙しく、愛人である惨鬼と情を交わす機会は中々
に持て無いのだ。それ故に、こうして亭主の留守に寸暇を縫って人目を忍び、寝
所に彼を招き入れている。
「くぅ… 昭美、チ○ポが溶けてしまいそうだ… 」
「うふふ… 嬉しい事を言ってくれるじゃないか? 隆義」
お互いに通称では無く本名を呼び合う二人は深い仲に成ってもう長い。
(しかし、こうまで多淫な女とは思わなかったぜ、虹の方様よぉ… )
熟女のフェラチオを堪能しながら、惨鬼は昔の事を思い出す。用事があって、本
家のお屋敷へ上がった時に、たまたま彼女の自慰を盗み見る僥倖に巡り会った惨
鬼は、有無も言わさずその場に闖入して、慌てる熟女を犯していた。形ばかりの
抗いを見せた後に魅惑的な熟女は素直に股を開き、最後には外戚衆の背中に爪を
立てながら何度も昇りつめていた。
(今にして思えば、あのオナニーも俺にわざと見せつけていたのかも知れんな)
目の前で男根を弄ぶ熟女を眺めながら、惨鬼は胸の奥で呟く。すでに二人の娘を
生んでいる彼女のフェラチオは絶品で、惨鬼をおおいに驚かせた。無論、この不
義密通が公になれば、ただでは済むまい。里を追われるどころか暗殺者さえも差
し向けられ、人知れず山林に骸を曝す事にも成りかねない。
だからこそ胸が踊り血が滾る。それに、何時までも大姫が里の権力者でも無かろ
う。もしも、このまま行けば、いま彼の股間に顔を埋めている女こそが、次の里
の最高権力を握る事に成る。そう成ればしめたもの、何も知らない亭主は飾り物
として、彼が里の裏の権力者に成る事も可能である。いや、邪魔ならば、亭主を
亡き者として、自分が完全に権力者に成る事だって夢では無いだろう。邪悪な思
いを内心に秘めながら、惨鬼は一人ほくそ笑む。
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